任天堂の2011年第二四半期決算が発表されたが、円高などの影響で赤字に転落した。
10月28日に行われた決算説明会で岩田社長より今後の戦略などが紹介されたので、任天堂のゲームが今後どうなっていくか紹介しよう。
情報提供について
任天堂に限らず、多くの会社は自社での情報発信をそれほどせず、メディアに任せていたところがあったが、ニンテンドー3DSカンファレンスをネットで生中継した結果ユーザーからの反応がよかった経験から、ユーザーに向けて直接情報提供することを今後推進するという。
その第一弾が10月21日に行われたニンテンドーダイレクトで、IR向けの情報提供と分けて情報提供していくとのこと。
年末商戦について
ゲームは年末商戦に売れ行きが上昇するが、例年の結果から今年も売れ行きが上昇することが予想されている。特にスーパーマリオ3Dランドやマリオカート7などの新作が続々と登場することで、3DSはもちろん、Wiiも売り上げが上昇することが予想されている。
年末商戦後について
従来、続編を中心に新作が提供されることが発表されていたが、それ以外にも新しいジャンルのソフトなどを提供していくとのこと。
ニンテンドー3DSの新機能について
3DSは11月末に本体更新が予定されているが、これによって追加コンテンツに対応、
起動回数制限の試遊版、スリープ中のダウンロードなどができるようになる。さらに将来はeShopのWeb化でeShopのコンテンツをPCやスマートフォンでも参照できるようになるとのこと。
すれちがい通信などの普及について
本体の普及により、口コミなどでの普及を狙う。
Wii U
2012年のE3でWii Uの最終形をみせる。ニンテンドー3DSでの失敗のようなことがないようにするというので、ソフトなどもかなりそろった状態で提供されることが予想される。
ゲーム専用機は生き残れるのか?
これらの施策などを通して「ゲーム専用機限界論を払拭していきたい」とのこと。
2011年10月28日(金)第2四半期(中間)決算説明会 任天堂株式会社 社長 岩田聡 講演内容全文
ゲーム機は数年置きに機能を向上させた新世代機が登場する。3DSも各種表示能力など携帯型ゲーム機としての基本機能が向上した。ソニーの新携帯型ゲーム機PlayStation Vitaも表示能力や操作方法など機能が向上する。しかし、最も目立つ表示能力が向上し、よりすごい表現が可能になったとしても、新しいゲーム機を買おうと思う方はゲームファン以外に多くはない。
これは、いくら速くなっても、燃費や安全性が高まったとしても、車に乗る方以外には車が売れないのと似ている。
3DSの立体視表示機能はこの表示能力向上の一種と言える。一般には立体表示こそニンテンドー3DSの最大の特徴とみられているかも知れないが、ゲームの楽しみを増大させる特徴は別にある。それが、通信に関係する機能だ。
ニンテンドー3DSの新機能
Wi-Fiを使った通信機能は初代ニンテンドーDSから備えていたが、これを強化しているのが3DSだ。
3DSのWi-Fi関連の機能強化点では、「すれちがい通信機能」や「いつの間に通信」がある。すれちがい通信機能では、特定のソフトでそのモードに設定しておくと、同じ設定をした他の3DS本体が近くにくると自動的にWi-Fiで接続し関連データをやり取りする。いつの間に通信は、インターネットに接続された3DSが自動的に各種データを受信する機能。
夜など充電している間など、3DSを使っていない間に、ビデオや本体更新データなどを自動受信し、自動的にアップデートしたり、外出先で自動受信したビデオの再生が出来るようになっている。
さらに、操作方法の改善では、ジャイロセンサーが付き、スライドパッドが追加され、よりゲーム操作の幅を広げ、DSiからついたカメラ機能も、3D撮影機能や、QRコードの読み込みが出来るようになり、拡張現実(AR)にも対応できるようになっている。
なかなか受け入れられない3DSの新機能
ニンテンドーDSが売れた理由に前世代のゲームボーイアドバンスからの表現力向上だけではなく、2画面でタッチパネル搭載による新しい操作方法のゲームが受け入れられた事がある。Wiiの表示性能は前世代のゲームキューブから多少向上した程度だが、今までのコントローラーとは異なる体験を生み出すモーションセンサーにより一般層へ広く普及した。
このように、新しいゲーム機を売るためには単に表示性能を向上させるだけではなく、ゲームを楽しむための付加機能の追加が欠かせなくなっている。
ニンテンドー3DSの場合は、Wi-Fiを使った通信機能やジャイロセンサーや内蔵カメラがそれだし、Wiiの後継機種となるWii Uはコントローラーにも画面がつくなど、新しい遊び方を提案できるようになっている。
しかし、これらの新機能もそれを生かしたゲームが登場し、誰でもわかりやすくそれによって楽しみが向上する事を一般層へ認知させない限り、売り上げに貢献する事は出来ない。
Wiiの場合、コントローラーの操作をみせるだけで新しい楽しみ方がわかったが、3DSの新機能でややこしい説明無しで誰でもわかる新機能は立体視機能くらいしか無い。その立体視表示については、ゲーム機の主要ユーザーとも言える子供への健康に及ぼす可能性、目が疲れるという意見があるなど、批判的な部分が目立ったりもした。
実際、立体視機能は新機能の一つジャイロセンサーと相性が悪いなど、まだ発展途上と言われても仕方の無い部分もあるが、この辺りどう伝えればいいか任天堂も苦労しているようだ。
そんな新機能も有力なソフトがそれに対応するなどすれば、それだけで状況が一変してしまうのがゲーム業界の面白い部分でもある。
ニンテンドー3DSの売り上げが芳しくない。
発売から半年ほどの8月に15,000円へ値下げし、9月には今後リリース予定のソフトが発表されそれなりに売れているようだが、大ヒットとはなっていないようだ。
その原因の一つにソフト不足がある。ゲームは年末年始にかけて販売数をのばす。11月にはスーパーマリオ3Dランド、12月にはマリオカートなど任天堂のソフトやサードパーティーから、年末から2012年にかけて主要ソフトが発売される予定で、それなりに売れる事が予想される。
DSシリーズは一時期常に品切れ状態になるなど絶好調といえたが、3DSに限らず今後の携帯型ゲーム機が同じようなヒット商品となるのは難しい。
一般層にどれだけ受け入れられるか
ニンテンドーDSは2007年前後に大ヒットとなった。ヒットの要因となったのが、普段ゲームをやるゲームファンだけではなく、あまりゲームをやらなかった一般層に普及した事がある。このヒットは、脳トレなどゲーム機用のソフトとしては従来売れなかった教育ソフトなどが、一般層に受けたことが要因の一つだが、3DSもこのような一般層へどれだけ浸透するかが今後の売り上げに直結する。
一般のゲームファンは自分がやりたい面白そうなゲームが販売されれば、本体と一緒にソフトも購入する。しかし、ゲームに興味の無い一般層は本体の値段がいくら安くなっても簡単には購入することはない。脳トレのようなブームを再度狙うにも、簡単にできる物ではない。
スマートフォンと携帯型ゲーム機
3DSに限らず携帯ゲーム機は、スマートフォンの普及が販売数に障害となると考えられている。
2008年頃からiPhoneなどスマートフォンが世界的に普及し、普段はゲームをやらないような一般ユーザーでも簡単に楽しめるカジュアルなゲームが、スマートフォンで楽しめるようになった。日本でもモバゲーやグリーなどの従来型携帯電話でも気軽にゲームで楽しめるようになっている。ある程度のゲームが出来る端末を持っているなら、いくら安くてもゲーム機能が中心の端末をわざわざ購入しようと言う方は少ない。
ニンテンドーDSシリーズは2004年11月の発売から2011年3月末までの約6年半で全世界1億4,642万台販売(任天堂決算資料から)した。一方、スマートフォンの2010年の販売数は、全世界年間3億台ほど(ガートナーなどの携帯電話販売数、年間約16億台の20%と仮定)販売されている。
この売上データから予想すると、2011年末のスマートフォンの累計販売台数はニンテンドーDSの数倍と想定される。実際に使われている稼働台数も、DSどころかスマートフォンがすべてのゲーム機を圧倒しているだろう。
スマートフォンは今後さらに増加する事が確実で、大ヒットしたニンテンドーDSシリーズが6年かけた合計販売台数を圧倒する台数が確実に普及する。
こうなると、ニンテンドー3DSに限らず、わざわざ携帯型ゲーム機を購入するのはゲーム好きだけという事になる。任天堂は以前から「ゲーム人口の拡大」という戦略をとっている。ニンテンドーDSやWiiでは、新しい遊び方をアピールする事でそれに成功し本体やソフトの販売数を伸ばしたが、様々な機能を向上させた3DSでは、それが直接「ゲーム人口の拡大」につながっていないのが現状だ。
アップルの携帯型音楽プレーヤーのiPodはiPhoneの普及で販売数を減らしているように、それに変わる物が登場する事で、従来の製品が売れなくなる事がよくある。
携帯型ゲーム機もその状況に陥ってしまうのだろうか?