「落ちぶれていくわけ」というタイトルを書いていてなんだが、日本の携帯電話会社は世界でトップレベルの品質を誇っている。
特にドコモのネットワークはすばらしく、市町村役場がエリアかどうかで判断する人口カバー率で2007年3月に100%を達成している。この後も、地下や山間部、ビルの谷間などでエリアを強化していると思われ、いつでもどこでもつながるという品質は世界で最高水準だ。
これに続きKDDIのauやSoftBankも国際レベルから比較すると、非常に高品質なサービスを展開している。SoftBankも国際レベルから比較すれば高いが、国内であまり評価が高くない。電波の問題もあり、地方や室内、繁華街の密集地などを除けばある程度の品質が得られているだろう。
そんな高品質なサービスを展開している携帯電話会社だが、これからは落ちぶれていくことが予想されている。通信という基本的なサービス自体は、これからも高品質を維持していくだろうが、基本的なサービスに付随する各種サービスレベルが低下していくことが予想される。
従来のフィーチャーフォン(多機能携帯電話、ガラパゴスケータイとも言われる)の時代には、携帯電話会社が主導的に企画した新サービスに対応する端末を、各端末メーカーが開発し、新サービス開始時に端末が多数そろっているという流れだった。
たとえば、電子決済機能では、おサイフケータイなどの基本的なサービスを鉄道会社などと連携し、各端末メーカーが対応端末を開発、利用者の利便性を向上させるという、よいサイクルができていた。
また、動画配信サービスを携帯電話会社が始める際には、その動画を視聴できる端末を開発するなど、携帯電話会社が求めるサービスを提供できる端末が市場に投入されつづけていた。
この回転がうまくいっていたからこそ、高性能な携帯電話が日本で開発され続けていたとも言える。
サービス面で見ても、iモードなど携帯電話会社のプラットフォーム上で外部の会社が有料サービスを展開し利便性が向上した。利用者は有料サービスも携帯電話の料金支払い時に決済するだけになり、利便性が向上し、サービス提供側としても比較的簡単に利益を得られるようになった。
しかし、スマートフォンの時代になると、携帯電話のプラットフォームを通さず、直接インターネットにアクセスできるようになった。ネット上の無料で利用できるサービス利用が中心になり、携帯電話会社経由で提供される有料サービスなどを利用するユーザーが減少する傾向にある。
従来月額料金が必要だった情報サービスも、インターネット上には無料の情報やサービスがあるし、ゲームなどについても月額料金は不要で楽しめる物が多数ある。
こうなると、携帯電話会社としては単なるデータ通信など基本的なサービスを展開するだけの会社になってしまう。これは「土管屋」などと言われる現象だ。
ここで言う土管屋とは、従来のように通信網を整備し、その上で展開するサービスも展開し、通信網とサービスの両側面を持った会社から、通信網にデータを流しているだけの水道で言うところで、土管の製造施工業者のようになってしまうことを言う。
もちろん、土管屋が悪いわけではなく、たとえばUQ WiMAXはこの土管屋に徹して通信サービスを提供しているわけだし、通信料収入があるので損をすることはない。問題は従来得られていた利益が減少し、発言力なども低下してしまうと言うことだ。
今までは自社の新サービスに合わせて専用の端末を各社に開発してもらえていたが、そのようなサービスが利用者が不要と考えるなら、その通信会社に特化した特殊な端末の開発コストは無駄になってしまいかねない。
世界では年間15億台を超える携帯電話が販売されているが、日本の一部通信会社に合わせた端末を年に数台開発するというのはコストの面で不利だ。
AppleのiPhoneは実質1台の端末を1年ほどの周期で開発している。一方の日本のメーカーは3社ある通信メーカーに、年間数機種提供している。台数を増やせば共通化できるモジュールはあるにせよ、その分の開発コストはかかるし時間もかかる。かといって販売数が多いわけでもなく、もちろん利益も多いわけではない。
これでは携帯電話端末会社の方もうまくいかなくなっていくのは当然だろう。
この流れのままでは、端末開発会社は日本の通信メーカーに特化した端末開発を減らし、携帯電話会社側も自社の進めたいサービスに対応した端末を開発してもらえなくなる。
それまでの日本の携帯電話が高性能な機能を必要とし、各デバイスメーカーがそれに合わせた高性能なデバイスを開発したからこそ、後のスマートフォンに使えるデバイスが出てきたとも言える。サービスに関しても日本の物から発展していった物がいくつもあるだろう。代表的な例で言えば絵文字だ。
日本のこれらの企業は、従来の利益の延長上でしかやってこなかったが、Apple iPhoneやGoogleなどのAndroid勢にそのいいところを持って行かれ、スマートフォンにビジネスの流れを奪われてしまいつつある。
このまま日本に特化したサービスだけを展開していけば、落ちぶれることはたやすい。しかし、先進国でもスマートフォンの普及率は高いわけではないのが実情だ。
これからの戦略次第で落ちぶれてしまう前に競争力を戻す可能性はある。